日米共同記者会見を行うバイデン米大統領(左)と岸田文雄首相
=5月23日、東京・元赤坂の迎賓館(鴨川一也撮影)
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ロシアのウクライナ侵略が続く中で、岸田文雄首相と、就任後初めて来日したバイデン米大統領が都内で会談した。
侵略による国際秩序の動揺はもってのほかの事態だ。インド太平洋地域へ波及させてはならない。全力でウクライナを支援するバイデン氏が中国の隣国日本を訪ね、対中抑止を最重視する姿勢を示したことには大きな意義がある。
両首脳はロシアの侵略を非難し、力による一方的な現状変更はいかなる場所でも許容しないと確認した。中国やロシア、北朝鮮に、日米で協力して対処することでも一致した。
対中抑止強化が急務だ
注目すべきは、バイデン氏が会談後の共同記者会見で、中国が台湾を攻撃した場合、米国が軍事的措置で防衛に関与すると明言したことだ。
台湾併吞(へいどん)をねらう中国は軍事力使用を否定しない。台湾有事は地理的に近い日本をめぐる有事に転化しかねない。中国の暴発を抑え込む必要がある。
歴代米政権は台湾有事への対応をあいまいにしてきた。だが、力の信奉者である中国には外交上の微妙な言辞は通じない。米大統領が台湾防衛の意思を発信した方が対中抑止力は高まる。ホワイトハウス高官は台湾政策に変更はないと釈明したが、大統領発言をうやむやにしてはならない。
日本では安倍晋三元首相が「台湾有事は日本有事だ」と指摘している。岸田首相や閣僚、与党は同様の認識を共有し、発信していくべきだ。
経済力を背景に軍事力を急拡大させている中国を抑止するのは難事だ。国際社会は努力を続けるべきだが、その中軸となり得るのが日米同盟だ。世界から今ほど日米同盟の役割が期待されているときはないと知るべきである。
会談で、さまざまな抑止力向上策が示されたのは評価できる。
両首脳は「台湾海峡の平和と安定」を「国際社会の平和と繁栄に不可欠の要素」と位置付けた。
中国や北朝鮮を念頭に、米国が核兵器と通常兵力で日本を防衛する「拡大抑止」の強化に向け、閣僚級を含め緊密に協議することになった。
中国、北朝鮮は核戦力を増強し、ロシアはウクライナや北大西洋条約機構(NATO)を核兵器で威嚇している。米国が日本にさしかける「核の傘」の信頼性は十分なのか、再点検が必要だ。
国民を守るため日本には核共有や独自核も含めタブーなき議論が求められる。ただし、結論を得て対策を講じるには相応の年月がかかる。安全保障の基盤の核抑止は一日たりともおろそかにできない。核の傘の点検、強化をまず急ぎたい。
「核の傘」を再点検せよ
岸田首相が「防衛力の抜本的強化」のため、「防衛費の相当な増額を確保する決意」を表明し、バイデン氏は歓迎した。国民を守り、平和を保つため、この約束を果たしてほしい。核抑止の大切さや「反撃能力」導入、防衛費の国内総生産(GDP)比2%以上の確保に向け、岸田首相は与党や国民に説明を始めるべきである。
バイデン氏は中国をにらみ、経済面でもアジア重視の姿勢を示した。日米など13カ国が参加して23日に発足したインド太平洋経済枠組み(IPEF)は、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)復帰の意思のない米国が、これに代わる枠組みとして提唱した。
地域覇権を追求する中国は「地域的な包括的経済連携(RCEP)」に加盟し、TPP参加も申請した。対抗するには日米を中心に地域の結束を強めることが欠かせない。日本は積極的に関わるべきである。
問題は、関税引き下げを協議しないため、米市場への進出に期待するアジア諸国などの恩恵がみえにくいことだ。さらに日米などが求める質の高いルール作りで各国の歩調が合うか。日本に求められるのは、実効性の高い枠組みとなるよう米国とアジアの議論をつなぐ橋渡し役となることだ。
発足メンバーに台湾が入らなかったのは残念だ。米中対立に巻き込まれることを警戒し、台湾参加で対中関係が悪化することを懸念する国もあるだろう。だが、台湾が参加すれば、地域のサプライチェーン(供給網)はさらに強化される。日本は台湾参加を各国に働きかけていくべきだ。
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2022年5月22日付産経新聞【主張】を転載しています